Urticaria, Acute

定義:

  • 掻痒を伴う一過性の膨疹[wheal,hives]。
  • 症状が6週間を過ぎて持続する場合、Urticaria,Chronicと称される。*1
  • 膨疹が固定され24時間以上持続する場合、蕁麻疹様血管炎や類天疱瘡を考える。

病態生理:

  • 免疫介在性(immune-mediated)の蕁麻疹
    • 肥満細胞や好塩基球細胞膜上のFc受容体に結合したIgEにリガンドが結合し、ヒスタミン等のケミカルメディエーターが放出されるⅠ型アレルギー。
      ヒスタミンはH1、H2受容体に結合。H1受容体の活性化は血液透過性の亢進を、H2受容体の活性化は血管拡張を引き起こす。
    • cytotoxic T細胞によるⅡ型アレルギーでも、反応過程で生ずる「副産物」が蕁麻疹を引き起こすことがある→蕁麻疹様血管炎、類天疱瘡
    • 免疫複合体が介在するⅢ型アレルギーでも蕁麻疹はしばしば誘発される→SLE等膠原病、悪性腫瘍
  • 免疫の介在しない蕁麻疹
  • 原因物質が判明するのは半数以下(40〜50%)。
  • 最近の報告によると、40%は上気道感染/ウイルス感染症、10%は鎮痛薬(薬剤性)、1%が食物不耐性による。


鑑別:

  • 類天疱瘡
  • 多型紅斑
  • マストサイトーシス
  • 蕁麻疹様血管炎

診断・治療:

  • 採血検査は不要。
  • 個疹が24時間以上持続する場合や水疱形成を認めた場合、生検を行う。
  • 鎮静作用の少ないH1抗ヒスタミン薬から始める。
  • 難治性の場合、H1、H2抗ヒスタミン薬の併用がより有効である。
  • ヒスタミン薬に抵抗性の場合、ステロイドに反応することがある。

*1:日本の定義では4週間(1ヶ月)を過ぎた場合。

*2:細胞膜の性質を変化させるため、と考えられている

X-linked Agammaglobulinemia (XLA)

定義:

  • X染色体上のBTK(Bruton tyrosine kinase)遺伝子の変異。
  • 伴性劣性遺伝のため、男児のみ(1/25万)発症。女児には決して発症しない。

病態生理:

  • BTKはpre-B細胞から成熟B細胞への分化に必須。患者は抗体を産生できない。

症状:

  • 母親由来のIgGがなくなる生後4〜6ヶ月頃より感染症を繰り返す。*1
  • 溶連菌、黄ブ菌、肺炎球菌等の莢膜を持つ細菌の感染に弱い。
  • 多いのは肺炎、中耳炎、髄膜炎。皮膚症状としては膿痂疹、膿瘍、蜂窩織炎など。
  • 自己免疫疾患の発生が多いことも知られる。

診断・治療:

  • 生後6ヶ月以降にIgGレベルを測定(100mg/dl以下でXLA疑う)。
  • 治療はIVIG*2に尽きる。
  • 5歳までに診断が付けられ、治療が開始されると予後はよい。
  • 生ワクチン厳禁。

*1:希にBTKの変異が軽く、成人になって診断されることもある

*2:intra-venus injection of immunoglobulin:免疫グロブリンの静注

Atopic dermatitis (AD)

詳細省略。

  • 罹患率は子供10〜20%程度、成人1%程度。
  • 患者の1/3が喘息を併発。1/3がアレルギー性鼻炎を併発。
  • 血液検査が必要となることは少なく、アレルギー検査(RAST)の有用性も低い。
  • 乾燥型には特に軟膏基材の外用薬が推奨される。
  • カルシニューリン・インヒビター(タクロリムス、ピメクロリムス)と悪性腫瘍の増加との関連はまだ精査中であり、2歳以上でステロイドでうまくいかない患者にのみ使用されるべき。
  • 漢方薬はしばしば高価だが、実用性に乏しく効果は期待はずれなもの。プレドニゾロンなどの処方箋を必要とする薬が含まれていることがある(笑)。

Hereditary Angioedema (HAE)

定義:
常染色体優性遺伝のC1-INH欠損症。10万人に1〜2名。

  • HAE typeI・・・C1-INHの産生量減少。患者の85%。
  • HAE typeII・・・機能しないC1-INHの産生。患者の15%。
  • HAE typeIII・・・エストロゲン依存性。女性にのみ起こるタイプ。激稀。

病態生理:

  • AAE参照
  • C1-INH遺伝子の変異は150以上報告されている。
  • typeIIIの機序は不明も、エストロゲンはブラジキンの産生を増やし、分解されにくくする作用があると考えられている。

症状:

  • 遺伝疾患ではあるが、症状発現は通常10〜20代の思春期。
  • 環境の変化や疲労、ストレス、歯科治療により症状が発作という形で現れる。
  • 特に喉頭浮腫は患者の7割が経験し、死亡頻度も低くない(15〜30%)。
  • 1/4の患者では腹部臓器の浮腫→吐き気や疝痛が主症状となる。
  • 浮腫は発生24hは増悪がみられ、3日ほどで消退する。時には5日以上持続。

鑑別:

  • acquired angioedema
  • ACE inhibitor-induced angioedema
  • episodic angioedema

診断・治療:

  • C1-INH、C1q、C2、C4の測定。
  • 急性期の症状にはC1-INH濃縮製剤*1、新鮮凍結血漿(FFP)の投与。
  • 症状発現の予防にアンドロゲン製剤、抗線維素溶解剤が使用され得る。
  • 歯科治療などの前に、予防的にC1-INH濃縮製剤等を投与することが推奨されている。
  • ACE阻害薬の使用はできるだけ避ける。
  • H.pylori菌感染は症状を悪化させる。除菌。
  • カリクレイン阻害剤、ブラジキニン受容体アンタゴニスト、遺伝子組み換えC1-INH製剤が開発中。

*1:ベリナートP。遺伝性のみ保健適応。薬価1バイアル11万円!

Acquired Angioedema (AAE)

定義:
後天的にC1 inhibitor(C1-INH)*1の機能不全を来したもの。

  • AAE typeI(AAE-I)・・・他の疾患(特にB細胞の増殖異常)に伴う二次的なもの。
  • AAE typeII(AAE-II)・・・C1-INHの自己抗体の存在。

病態生理:

  • C1-INHは、C1、第XIIa因子*2カリクレイン*3の抑制因子。
  • C1-INHの機能不全→カリクレイン、Hageman因子の抑制が乱れる→ブラジキニンの産生

症状:

  • 皮下組織の浮腫・・顔面、陰部、四肢
  • 腹部臓器の浮腫・・胃、腸、吐き気や疝痛を来すことあり
  • 上気道の浮腫・・・喉頭浮腫

鑑別:

  • hereditary angioedema
  • ACE inhibitor-induced angioedema*4
  • episodic angioedema

診断・治療:

  • C1-INHは、外注検査できる。保険点数290点。C1q、C2、C4の消費による低下。
  • 急性期の症状にはC1-INH濃縮製剤*5、新鮮凍結血漿(FFP)の投与。ただし分解が早く、効果は一時的。
  • 抗体産生を抑えるために免疫抑制剤
  • カリクレイン阻害剤、ブラジキニン受容体アンタゴニスト、遺伝子組み換えC1-INH製剤が開発中。

*1:C1-inactivator、C1 esterase inhibitorとも呼ばれる

*2:Hageman因子:ハーゲマン

*3:キニノーゲンを加水分解し、キニン(特にブラジキニン)を作り出す。血漿カリクレインは第XIIa因子により活性化される

*4:ACEはブラジキンを分解する働きがある。

*5:ベリナートP。遺伝性のみ保健適応。薬価1バイアル11万円!